店長としてお店をひっぱっていく
老舗の日本酒専門店に、井伊さんが店長として迎えられたのは2009年。初の女性店長、なおかつ最年少の25才のときだった。 「以前からオーナーと知り合いで、日本酒が好きだったこともあって勢いで入社しました。若くて、怖いもの知らずだったんです。どんなに大変か、全く理解していませんでした」 料理長をはじめ、スタッフは50代、60代の男性が中心。新米店長がその中に溶け込むには、相当な時間を要した。
「男性社会ですから、小娘と思われていたのだと思います。職人気質の人には、話を聞いてもらえないときもありました。最初は探りさぐり、その人の性格に合わせて伝え方を変えるようにしました」
メニューのバリエーションを広げたり、日本酒の種類をさらに充実させるなどの改善にも着手。とりわけ、井伊さんが見直しの必要性を感じたのは、常連客への対応だった。
「常連の方とその他のお客様では、明らかに差のある接客でした。隔たりをなくし、過剰なサービスを行わないようにしました」
それから10年――今では女性が全スタッフの7割を占め、働きやすい職場を実現。互いに協力し合える理想的なチームができているからだ。
「体調や個人の都合で誰かが抜けても、みんなで自然にカバーし合える環境です。スタッフが休みを取りやすいよう、私自身も率先して旅行に出かけたり、プライベートを楽しんでいます」
定着率の高さは、井伊さんが誇りにしているところ。スタッフをまとめ上げながら、1人ひとりへの感謝の想いを決して忘れない。
「長く働いてくれる人が多くて、ありがたいなと思っています。日本酒に興味のなかったスタッフがお客様にお酒の説明をしているのを見たり、いつの間にか料理ができるようになっていたりすると、勉強してくれているんだなと本当にうれしくなります。スタッフの成長を感じられるのが何よりの喜びです」